2025.05.07

アド・フォーラム2025「KYOTOを輝かせる広告コミュニケーション ―新たな京都の活性化に向けて―」を開催しました。

 「KYOTOを輝かせる広告コミュニケーション―新たな京都の活性化に向けて―」をテーマに「京都広告協会アド・フォーラム2025」を3月17日に京都市下京区のからすま京都ホテルで開催し、会員・一般の約100人が聴講しました。
 講演2題とトークセッションの要旨を紹介します。

講演①
■海外視点で紐解くKYOTOの真の価値
 ~グローカルで考えるコミュニケーション訴求点~


新沢崇幸氏(LANDOR TOKYO Managing Director)

 京都は圧倒的に他地域と違う異文化が体験できる場所でありながら都市である、世界でも希有な存在です。しかしそんな京都にもオーバーツーリズムの問題があり、人は多くてもモノが売れないという話も聞きます。そうした課題の原因は、「京都が提供しているもの」と「外国人が京都に求めているもの」とのあいだにギャップがあることだと考えられます。

■富裕層が旅に求める四要素──体験・健康・会員・非豪華

 課題の解決に向けて、まずは世界の富裕層が旅行に求めるものについて調査した結果から四つのポイントを紹介します。一つ目は「キュレーション精神」です。世界の富裕層は、簡単にはシェアできない、ユニークな自分だけの芸術的な体験を求めています。その人たちにとって日本は魅力的です。日本にしかない、持ち運べない美しさこそが世界の富裕層が求めるものです。人生のアルバムに残るような特別な体験をどう作れるかを考えると、京都の課題解決の糸口になるはずです。
 二つ目のポイントが「ウェルビーイング」です。心のありようも含めて健やかな自分であることを富裕層は求めていて、健康が一番の贅沢だという人が一定数います。その人たちからすると、我々が普段食べている漬物などの発酵食品、海苔などの海藻やキノコなど、あらゆるものが健康的だと捉えられますから、ここにもチャンスがある。
 三つ目が「コミュニティ形成」です。一定以上の富裕層には会員制であることに価値を見出す傾向が見られ、世界中でメンバーシップ・プログラムが流行しています。顧客を会員としてつながりを保ち、サブスクリプションなどのかたちで継続的に情報やサービスを提供することには大きな可能性があります。
 四つ目が「非豪華主義」です。派手な富の誇示は悪趣味とされ、富をひけらかさずに自分を高めることが新たな贅沢となってきています。抑制のきいた美しさは日本の得意とするところです。上質であっても高級だと思ってもらえなかったシンプルな商品でもその価値が理解されやすくなっていますから、価格を上げることも可能になると考えられます。

■世界のグローバル都市に見るまちづくりの五つのポイント

 次に、世界のグローバルシティがどのようにできているのか調べた情報から、京都でも参考になりそうな、まちづくりに必要なポイントを五つ紹介します。
 一つ目は「歴史を現代的に蘇らせ、シビックプライドを形成する」。そのまちが持つ歴史や由来を活かした、住民が誇りを持てるまちづくりが必要です。二つ目が「地域・国の文化を高め、世界中の人に再解釈をさせる」。たとえばUAEのドバイでは、世界から富裕層が集う高級ホテルの近くに、中東の伝統文化を世界の人に向けて再解釈・再構成して伝えるオールドタウンというエリアを設けています。三つ目は「日常を豊かにし、まちとのつながりを感じさせる」。シンガポールのチャンギ空港では、観光客と地元の人がつながりを持てるポイントを設けていますし、観光客の行動が地元民に還元される仕組みがあります。四つ目が「スマートな暮らしの新しいスタンダードを提示する」。日本のWoven CityやサウジアラビアのNEOMでは、それぞれの国の伝統文化や価値観を軸にしつつ、そこから導き出される世界の人びとのための新しい生き方、新しい都市の姿を提示しています。
 五つ目は「ビジョンがある」。世界のグローバル都市には必ずビジョン・ワードがあり、自分たちがどんな存在か理解してもらえるようになっています。みなさんにも、自分たちが何者で、今後どうありたいか言語化してみることをおすすめします。その際に外部の視点を入れると未来につながります。日本の他地域や海外も含めて「外から来る人が何を求めているか」と「自分たちは何を提供できるか」とを掛け合わせて、「我々はこういう者で、これを提供していく」ということを言語化する。言葉にすると違いがわかり、伝え方も見えてきて課題解決につながります。

■世界の消費トレンドから得る京都へのヒント

 最後に、世界の消費トレンド分析をしたデータから参考になりそうな情報を紹介します。一つが「採取ツーリズム」です。たとえばキノコ狩りが旅のテーマとして人気のようです。これについては京都なら、ホヤや海苔の採集体験ツアーが考えられます。
 「超越した旅」も人気です。自分しかできない体験に強い関心があって、時間やお金をいくら使ってもいいという富裕層は増えています。これについては、神事だから難しいとは思いますが、たとえば京都のお祭りに、半年程度の期間と高いお金を費やして学んだら海外の人でも参加できる枠を設けられたら、「こんなことまでできた」という思いは強く心に残る。参加のハードルを上げれば上げるほど参加希望者は増えると思います。
 「探検ダイニング」も人気です。食は最後に残されたユートピアで、食の付加価値は今後も上がり続けます。たとえば京野菜の収穫体験をして、それを食材に料理を提供するところまでを一つのコースにしたら、海外の富裕層は喜ぶはずです。それは他では絶対に体験できないことだからです。
 「メンバーシップ・プログラム」の流行は先ほども紹介しましたが、顧客と継続的なつながりを持つことはビジネスとして強いツールです。たとえば私は京都の黒七味が好きで来るたびに買いますが、これをサブスクリプションにして、半年に一つ届くサービスがあったらうれしい。それに限らず、京都との継続的なつながりができて、まるで自分が京都の一員かのように感じられる体験は、海外の人は大好きです。
 旅行に来る人は、京都にしかないものを求めています。みなさんが当たり前に思っているモノ、コトのすべてに、みなさんが思う以上の価値がある。伝え方を変えるなど、それを旅行者が求めるものへとわかりやすく変換することでチャンスがあると思います。

 

講演②
■京都というブランドの使い方
 ~商品・サービスのブランディング事例から~

小柳俊郎氏(株式会社クロマニヨン代表取締役/CEO)

 本日はブランディングの視点から、京都のビジネスの可能性を考えます。はじめにブランドとブランディングについて、この場での概念の共有をします。

■存在意義を言語化し、ブランド=意味を確立する

 はじめに、ブランドの概念を揃えます。高級なものだけではなく、生活に浸透しているあらゆる商品、サービスがブランドです。Tシャツ1枚が4万円するブランドと1枚400円で買えるブランド、人々の生活に浸透していれば企業戦略上はどちらもすごいブランドです。
 次にブランドの機能を考えます。まず、宝くじが当たって高級車を買うとしたら、何を選びますか。もう一つ、コンビニエンスストアで急いでお茶を買うとき何を選びますか。どちらも5秒以内に決めてください。自動車のブランドは世界に246あるそうですし、ペットボトルのお茶は小さなコンビニでも18ブランドぐらい置いてある。でも、5秒で決めろと言われたら、おそらくみなさん瞬時に一つを選択できる。これがブランドの機能です。
 社会経済活動のすべては選択でできています。我々のような事業者や経営者は選ばれる側です。競合に勝って顧客や従業員に選ばれ続けなければいけない。では、人が選択をする際には何を決め手に選ぶか。この時代において人は最終的に、ペットボトルも自動車も「気持ち」で選んでいると考えられます。
 さまざまな商品やサービスのなかには、品質や性能で他より劣っているのに選ばれているものがあります。これは「気持ち的な価値」で勝っている状態で、このことを「情緒価値で勝る」と表現します。品質や性能は「機能価値」で、これは高くて当然です。品質の悪いものは絶対に売れません。機能価値の判断基準は良いか悪いかしかなくて、安いほう、性能のよいほうが勝つ。一方で、情緒価値の判断基準は好き嫌いです。みなさんが努力して機能価値を高めた事業やサービスや商品にどれだけ大きな情緒価値を積み上げられるかがブランディングで、同程度の機能を情緒で上回るための戦いがブランドの戦いです。
 私は、クライアントの皆様には、ブランドは「意味」だとお伝えします。いまの時代、人は意味がないものに対して愛着や誇り、やる気を抱くことは難しい。その意味がブランドで、それがなければ顧客や社員の方に選ばれません。ブランドを作るとは、意味を確立することです。意味が確立されたブランドは、サービスや商品、企業の「認識記号」と消費者・生活者の「想起価値」とが連動しています。認識記号はたとえばメルセデス・ベンツのマークのようなもので、認識した瞬間に「高級車だ」という意味、想起価値とつながる。この認識記号と想起価値とが瞬時につながる状態が、ブランドが確立されている状態です。この一瞬でつながる言葉、意味を作るためにブランディングが必要になります。
 ブランディングの最優先事項は、その企業や事業が何のために存在し、世の中にどんな価値をもたらすのか?という存在意義の言語化です。しかも、誰か一人が作ったものではなく、チーム全員、社員みんなで、思いを一つにできる存在意義を抽出することが一丁目一番地です。それを言葉にしたものが優れた企業理念です。企業のなかには「高い技術で地域に愛される」、「地域ナンバーワンになる」といった理念を掲げるところも多いですが、これは単なる自身の目標です。これだけでは共感を得られません。社会における目的、存在意義を、「〜する」という動詞を使って言語化することが必要です。そしてブランディングの最重要事項は一貫性です。いつも同じことを言い、同じ見え方にすることが大切です。

■京都という強大なブランドの圧倒的な優位性を活かす

 福岡の人たちに京都のイメージを聞くと、「古都なのに新しい魅力がある」とか「インバウンドだと騒いでいるけど、本当の京都人はそんな人たちが来ない場所から、1200年の歴史の一コマ程度に見ている気がする」といった回答がありました。このように、京都という認識記号に対しては、千年を超える情緒価値の積み重ねからくる強力な意味が一瞬にして大量に出てきます。日本人にとっての京都は、夥しい数の言語化された「情緒価値」と強大な「意味」を持つスーパーブランドです。こんな場所は他にありません。
 一方、「近頃は『なんちゃって京都』も多い」とか「どこも外国人だらけでストレスだらけだと聞く」という意見もありました。たしかに、オーバーツーリズムの問題が指摘され、風情が感じられないとか、「京都○○」という商品が氾濫していてブランドが毀損されるのではないかと言われることもありますが、個人的にはまったく問題ないと考えています。京都というブランドはそんなものには負けない。むしろ簡易的な京都文化や京都商品が出れば出るほど、1200年以上積み重なってきた京都の圧倒的な意味の価値は高まり、より強くなります。時代は本物、本質を求めていますし、古いもののすごさを見直しています。この流れは、京都ブランドにとっては独壇場です。ますます揺るぎないものになります。
 それを踏まえて私が提案したい京都というブランドの使い方は、京都ブランドの傘の下で何をするかではなく、京都ブランドという強固な舞台の上で、みんなが共感できるような存在意義を理念として言語化し、実行することです。京都のみなさんには、1200年以上積み重なってきた京都の圧倒的なブランドに乗ることができる強みがあります。私はいまでも半年から1年かけて、さまざまな企業の理念を作っています。でも、こんなことを言うと叱られますが、他地域の企業と同じような理念を掲げていても、京都ブランドという圧倒的な土台があるとわかった瞬間に価値が何倍にも拡大する。これが京都のブランドのすごさです。この圧倒的な優位性を活かすことこそが京都ブランドの使い方だと考えます。


■トークセッション
 広告が京都をより輝かせる ~ブランド・事業の旗印となる広告とは~

新沢祟幸氏×小柳俊郎氏×番匠俊允氏(モデレーター・㈱宣伝会議執行役員)

●番匠 新沢さんと小柳さんに会場からのご質問に答えていただきながら、京都という強力なブランドをより輝かせる方策を考えたいと思います。まず「ブランド作りの参考になる他都市の例を知りたい」という質問がありましたが……。

●小柳
 京都がどこかをお手本にするのは難しいですよ。どの自治体もたった一つのブランドをなんとか作ろうと必死にがんばっているのに、京都には意味も情緒価値も何百というぐらいあるわけですからね。

●新沢
 その多様な要素のうち何を自分たちのサービスや商品に紐付けるかが大事ですね。

●小柳
 京都はいくらでも紐付けが可能ですよ。たとえば福岡県柳川市というとウナギで、そこでサバがうまいと言っても誰もピンとこない。でも京都なら酒や和菓子、コスメなど多種多様な要素の何を紐付けても納得感がある。これは日本中で京都だけでしょう。

●番匠
 しかも1200年以上の歴史が紡いできたストーリーがあるから嘘っぽくないのが強みですね。ブドウ農園をされている方から、「外国人の心に響くものへと昇華させるには何が必要ですか」という質問がありましたが、「メイド・イン・京都のブドウ」で通じるということですね。

●新沢
 そうです。そこに京都が持つ「丹精込めた手づくりのよさ」という要素を紐付けてもいいですね。それで一つのストーリーになります。

●番匠
 小柳さんは八女茶のブランディングをされていますが、「地域の人や利害関係者をどのようにまとめたらいいですか」という質問をいただきました。

●小柳
 生産者や茶商、自治体などのすべての関係者が参加する場で、八女茶をどうしたいかという長時間のセッションをできるだけ多くの方々と行ってスローガンやパーパスなどを決めました。全員で思っていることを言い尽くすことは大事で、それが遠道のようで近道だと思います。

●番匠
 「リピーターを増やすにはどうしたらいいか」という質問もありました。

●新沢
 いいところを真摯に、一貫性をもって伝え続けるかしかない。そこを気に入ってもらえなければリピートはないので、好きになってもらう努力を繰り返すことですね。

●小柳
 フリーペーパーを制作していたとき私の中に刻まれた言葉は「深く、狭く、刺す」。最初に深く狭く刺して熱狂的な人を1~10人生み出せなければリピートしない。1~10人が熱狂すると思えたら、その商品やサービスに注力する方法がいいと思います。

●番匠
 「高額消費者を狙う際に、一般的な消費者を狙えばいいのか、ツアーで来るような団体層を狙えばいいのか」という質問もありました。

●新沢
 イメージですが、ツアーで来る人は勧められるがままに来ている人が多いので、いまどれだけお金を使ってくれていても、ツアーがなくなれば来なくなる。一方で、自分の意思で来てくれる人はリピートもあるし紹介もしてくれますから、その人をどれだけ増やすかが一つの攻略ポイントだと思います。

●小柳
 富裕層は体験を求めていますから、そこに注力するのが一番だと思います。

●番匠
 京都には体験の切り口が数多くありますから、どう商品造成するかですね。長いあいだ同じ売り方をしてきたものについて、違う売り方をするアイデアが不足している可能性はあるかなと、お二人の話を聞いていて感じました。

 最後に漠然とした質問ですが、京都は今後どんな取り組みをしていけばいいでしょうか。

●新沢 外の人は、京都に暮らしておられる方の生活感や、京都のみなさんがずっと大切にしてきたものにこそ触れたいと思っています。そのことを忘れずに、変えずに京都であり続けていただきたいと思います。


●小柳
 京都はわからないところがカッコいいので、そのままでいてほしいですね。全部は見られない状態であり続けるから憧れ続けるわけです。漠然とした答えですが、いつも少し意地悪で、全部は見せないという部分を、京都には持ち続けてほしいと思います。


・番匠俊允氏(左)をモデレーターに行われたトークセッション

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